
HO(ハンドアウト)の読み方入門——どこから読む? 何を隠す?
マダミスの開始直前、手元に配られる数ページの資料。それが「HO(ハンドアウト)」です。初めての卓では、この資料を前にして「多い……どこから読めばいいの?」「これ、言っていいの?」と固まってしまう人がとても多いのです。この記事では、HOの典型的な構成と読む順番、隠すべきことの見分け方、そしてよくあるつまずきの防ぎ方を整理します。案内役は物知りカラスのイマクロウと、好奇心旺盛な猫のミス・マダムです。
HO(ハンドアウト)ってなに?

イマクロウ、はじめてマダミスに参加したとき、いきなり数ページの紙を渡されて「では10分で読んでください」って言われて……頭が真っ白になったの。

うむ、それが「HO」——ハンドアウトだな。マダミスでいちばん大事な資料で、いちばん最初の関門でもある。だが読み方のコツを知っていれば、まったく怖くないのだ。
HO(ハンドアウト)は、マーダーミステリー(マダミス)でプレイヤー一人ひとりに配られる、自分が演じる人物についての資料です。名前や経歴、事件があった日の行動、他の登場人物との関係、そして——ここが肝心——他人には知られたくない秘密と、ゲーム中に達成したい目的が書かれています。
呼び方は作品によってさまざまです。「ハンドアウト」「HO(エイチオー)」のほか、「キャラクターシート」「キャラクター資料」「秘密の手記」「あなたの物語」など。どれも同じもの、と考えて差し支えありません。
前回の記事叙述トリックとマダミスでは、このHOを「マダミスの地の文」と呼びました。小説なら語り手が読者に世界を見せるように、マダミスではHOが、あなたにだけ見える世界を語ってくれる。つまりHOは、あなたにとっての物語の入口そのものです。
HOは「他人に見せない」のが原則
HOの内容は、基本的にあなただけが知っている情報です。誰かに「見せて」と言われても、紙やスマホの画面をそのまま見せるのはたいていルール違反。ただし「内容を口で伝える」ことは、多くの場面でむしろゲームの本体です。「見せない」と「話さない」は別、と覚えておきましょう。
HOの典型的な構成——早見表
作品ごとに書き方は違いますが、多くのHOは次のような要素で組み立てられています。全体像を知っておくと、初見のHOでも「あ、これはあの部分だ」と落ち着いて読めます。
| 要素 | 何が書いてある? | 読むときの重要度 |
|---|---|---|
| プロフィール | 名前・年齢・職業・性格・他の登場人物との関係 | ★★ 雰囲気づくりの土台 |
| 事件当日の行動(タイムライン) | 何時に何をしていたか、誰と会ったか | ★★★ 議論の主戦場 |
| 秘密 | 知られたくない過去・隠している事実 | ★★★ 読み落とすとゲームが崩れる |
| 目的・勝利条件 | ゲーム中に達成したいこと(「犯人を当てる」「〇〇を隠しきる」など) | ★★★ 最優先で読む |
| 他キャラとの関係 | 誰を信頼している/恨んでいる/恩がある | ★★ 議論の味つけ |
| 公開区分 | 「話してよい」「隠すべき」の区分やアイコン | ★★★ 迷ったときの拠りどころ |

思ったより項目が多いのね。全部を同じ重さで読もうとしたから、時間が足りなかったのかしら。

そのとおり。HOは小説ではないから、頭から順番に読む必要はない。重要度の高いものから読むのがコツなのだ。次の章で、その順番を話そう。
なお、作品によっては「一般情報(全員に共通の資料)」と「個別情報(あなただけの資料)」に分かれているものも多くあります。全員が読んでいる資料と、自分だけが読んでいる資料を区別しておくことも、後の議論で「それ、みんな知ってる話だよね?」と混乱しないために大切です。
読む順番——「目的と秘密」から読む
読む時間は多くの場合、5分から15分程度しかありません。そこでおすすめしたいのが、次の順番です。
- 目的・勝利条件を読む——「この人は、このゲームで何をしたいのか」を最初に知る
- 秘密を読む——「何を隠しているのか」を押さえる
- 事件当日の行動(タイムライン)を読む——目的と秘密を知った目で読むと、「この時間帯は正直に話せる」「ここは危ない」が見えてくる
- プロフィール・人物関係を読む——最後に、人物としての肉づけをする
なぜこの順番なのでしょうか。目的と秘密を先に知っておくと、あとの情報がすべて「自分にとって有利か、不利か」というフィルターを通して読めるからです。たとえば「あなたは22時に裏庭にいた」という一文も、秘密を知らずに読めば単なる事実ですが、「裏庭で密会していたことを隠したい」と知っていれば、「この時間は絶対にごまかさなきゃ」と読める。同じ情報が、読む順番で頭への残り方が変わるのです。
時間が足りないときは
読み切れないまま開始時刻になったら、「目的」「秘密」「タイムライン」の3つだけは押さえておきましょう。プロフィールの細部は、議論の中で他の人に質問されたときに、そのつどHOを見返して答えても十分に間に合います。多くの卓では、ゲーム中にHOを読み返すことは当然のように認められています。

最後にプロフィール、というのは意外だったわ。人物のことを先に知りたくなるのに。

気持ちはわかる。だがマダミスでは、人物像は議論の中でだんだん立ち上がっていくものなのだ。開始前に暗記しなくても、「どんな人か」はHOを見ながら少しずつ演じればいい。急ぐべきは、動きを決める「目的」のほうなんだ。
「言っていいこと」「隠すべきこと」の見分け方
初心者が最も迷うのが、ここです。「これ、話していいの? 言ったら負けになるの?」——判断の基準は、次の3段階で考えると整理できます。
第1段階:作品ごとの指示に従う。 多くの作品は、HOの中で「公開してよい情報」と「隠すべき情報」を区分しています。「【公開可】」「🔒」「※この情報は他の人に話しても構いません」といった書き方です。区分があるなら、それが最優先。自分の判断で勝手に厳しくしたり緩めたりする必要はありません。
第2段階:区分がなければ、目的から逆算する。 「この情報を話すと、自分の目的の達成に不利になるか?」を考えます。不利にならないなら、話してしまって問題ないことが多いです。むしろ、正直に話せる情報は早めに出したほうが信用を得られます。
第3段階:迷ったらGMに聞く。 GMがいる卓なら、こっそり手を挙げて「これは話していい情報ですか?」と質問して構いません。GMは、あなたが困っていることを歓迎します。GM不要の作品なら、HOやルールブックに「開示のルール」が書かれていることがほとんどなので、その記述を探しましょう。
「全部隠す」は、いちばん損な作戦です
「何を言っていいかわからないから、とりあえず黙っておく」——気持ちはわかりますが、これはマダミスでいちばん損をする選択です。何も話さない人は、情報を持っていないと見なされるか、逆に「何か隠している」と疑われます。秘密は1つか2つ守れば十分。それ以外は、どんどん話して議論に参加したほうが、ゲームも人間関係もうまく回ります。
ここで、ひとつ安心してほしいことがあります。「話してはいけないこと」を隠すのに、上手な演技も嘘の才能も要りません。マダミスに演技力は必要?で書いたように、必要なのは「この人なら、ここは黙るだろう」と判断することだけ。「その時間のことは、ちょっと言いにくいです」と正直に濁すのも、立派なプレイです。
よくあるつまずきと、その防ぎ方

実はね、前の卓で自分のHOに書いてあったことを見落として、後半で「え、そんなこと書いてあった?」ってなったの……。

はは、それは誰もが一度は通る道だ。恥じることはない。だが、防ぐ方法はちゃんとあるのだ。
初心者がつまずきやすいポイントを、4つ挙げておきます。
① 読み落とし。 HOの後半、とくに「他キャラとの関係」や補足の一文に、重要な情報が潜んでいることがあります。防ぎ方は単純で、目的と秘密を読んだあとに、もう一度ざっと全体を眺め直すこと。目的を知ったあとの2周目は、1周目とは違うところが目に留まります。
② 自分の嘘を忘れる。 「21時は部屋にいました」と言ったのに、30分後に「21時は廊下で……」と言ってしまう。これは犯人役でなくても起きます。防ぎ方は、自分がついた嘘をメモに残すこと(次章で詳しく)。
③ 秘密を守ろうとして議論に入れない。 前章で触れたとおり、隠すべきことは通常1〜2個です。それ以外は話す。「秘密以外は全部正直」と決めてしまうと、驚くほど楽に議論に参加できます。
④ 一般情報と個別情報の混同。 全員が知っている事実を「これは私だけの情報だ」と抱え込んだり、逆に自分だけの情報を「みんな知ってるよね?」と話してしまったり。HOを読むときに、「これは共通資料か、自分だけの資料か」を意識して区別するだけで、かなり防げます。
つまずいても、ゲームは壊れません
読み落としや言い間違いは、ほとんどの卓で「あ、ごめん、さっきのは間違いでした」の一言で修正できます。GMがいれば、GMがさりげなくフォローしてくれることも多いです。完璧に読み込むことより、「わからなくなったら聞く・訂正する」の気楽さのほうが、卓全体にとって大切です。
メモの取り方——3行あれば足りる
HOを読んだら、紙でもスマホでも、次の3つだけメモしておくことをおすすめします。
- 目的:「〇〇を隠しきる」「犯人を当てる」など、一行で
- 秘密:隠すべきことを、キーワードだけで(「裏庭・22時・密会」など)
- ついた嘘:議論中、自分がごまかした発言を追記していく(「21時は部屋と言った」)
議論が始まると、HOを頭から読み返す余裕はまずありません。数ページの資料より、この3行メモのほうが、はるかに頼りになります。とくに3つめの「ついた嘘」は、書き足しながら進めると、矛盾した発言をほぼ防げます。
余裕があれば、他のプレイヤーの発言も「Aさん:21時に食堂」「Bさん:Aさんと一緒だったと証言」のように短く記録しておくと、推理の材料が増えます。ただしこれは慣れてからで十分。まずは自分の3行から始めましょう。

3行だけなら、気軽にできそうね。数ページを暗記しなくていいのは、ほっとするわ。

HOは暗記するものではなく、参照するものだからな。手元にあるのだから、いつでも見返せばいい。頭に入れておくのは、動きを決める3行だけで足りるのだ。
まとめ:HOは「台本」ではなく「地図」
最後に、この記事の要点をまとめます。
- HOは、あなたが演じる人物についてのあなただけの資料。作品によって呼び方はさまざま
- 読む順番は目的・秘密 → タイムライン → プロフィール。時間がなければ前の3つだけ押さえる
- 「言っていいこと」は作品の指示 → 目的からの逆算 → GMに質問の順で判断。全部隠すのはいちばん損
- 読み落としと嘘の忘れは、「目的・秘密・ついた嘘」の3行メモでほぼ防げる
HOは、セリフが書かれた台本ではありません。あなたがどこにいて、何を持っていて、どこへ向かえばいいかを教えてくれる地図です。地図を手に、あとは自分の言葉で歩けばいい。

地図、というのはしっくりくるわ。道は自分で選んでいいのね。

うむ。そして地図の読み方がわかったなら、次はいよいよ「いちばんスリルのある道」の歩き方を話そう。——犯人役が回ってきたとき、どう振る舞えばいいのか。次回の記事で、じっくり語るつもりだ。
マダミス全体の流れや準備をまだ押さえていない方は、マダミスの始め方もあわせてどうぞ。そもそもマダミスとは何か、という方はマーダーミステリーとは?から。